脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

新型コロナに備える:解熱鎮痛剤は飲まない

フランスの厚生・連帯大臣Olivier Veran氏。神経科医(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 

 

フランスの厚生大臣オリヴィエ・ヴェラン氏が、コロナウイルスに関して、イブプロフェンを服用しないほうがよいと推奨した。イブプロフェンとは、非ステロイド性の抗炎症薬(NSAID)に属する薬である。

 

小児科医、神経内科医であれば、まぁそうだよね・・という反応である。

 

 

1.風邪=ウイルス

 

風邪をひいて病院に行くと薬をもらいたい。

何もしないのは不安なものだ。

特に小児科では、発熱した子供を病院につれていき、何も薬がもらえないと怒りだす母親もいるそうだ。薬がなければわざわざ病院に言った意味がないらしい。薬をくれる医者は評判のよい医者・・・ということになる。

 

では、発熱だけの患者に何の薬が処方されるのだろうか。風邪の原因の約90%はウイルスが原因である。特効薬はない。

 

 

医学の祖、ヒポクラテスの時代から解熱剤が利用されるようになった19世紀半ばまで,風邪を引いたときに熱が出るのは体にとって有益な兆候とみられていた。

 

発熱は,感染した細菌やウイルスの排除に重要な役割をもっている.例えば、インフルエンザウイルスの失活に対して,発熱とともに重要なのは,炎症性サイトカインである.インフルエンザウイルスが,単球-マクロファージに感染すると,それぞれのサイトカイン誘導に必要なタンパクが合成され,TNF-α,インターロイキン(IL)-1β,IL-6,インターフェロンなどが誘導され,発熱などの全身反応を生じる.この結果,症状が出始め,インターフェロンが出始めてから半日後には,鼻粘膜中のインフルエンザウイルスは減少し始める.

 

  

2.インフルエンザ

 

私がインフルエンザの診療をしていた際に注意していた点は、「インフルエンザ脳症」つまりインフルエンザそのものよりは合併症であった。

 

ウイルスによる重大な病気で、ライ症候群やインフルエンザ脳症,高病原性鳥インフルエンザによる死亡者で炎症性サイトカインが異常高値となっていることはよく知られている.インフルエンザ脳症の予防に対するオセルタミビル(タミフル®)の有効性のエビデンスはなく,むしろ「否定的」とされている.その理由として,インフルエンザウイルスの感染が引き金になってはいるが,病態形成の中心はウイルスによる細胞傷害ではなく,免疫システムの過剰反応,すなわち過剰な炎症性サイトカインの産生・放出にあることとされている。


1918‐19年パンデミックでも多くの人は数日間の激しい症状の後に回復したが,重症化例では,病変は全身におよび,DIC様の全身の出血,意識障害・精神症状(脳症症状),急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の徴候を備え,硬化病変を主体とする通常の肺炎とは極めて異なる場合が多かったとされている.すなわち,サイトカインストームによって生じる病変に一致していると考えられている.

 

 特に若者の死亡者が多かった軍隊における解剖例のほぼ半数に今日ARDSとよぶべき所見が認められたという.軍隊では特にアスピリンの使用が多かった.

 

 

3.NSAID(非ステロイド性解熱鎮痛剤)

 

 非ステロイド性解熱鎮痛剤(NSAID)を感染動物に使用すると死亡率を増加させることは10論文16実験のメタ解析の結果で示されている(統合Peto オッズ比:7.52 : 95%信頼区間(CI)4.58-12.35,p <0.00001) 1).米国のライ症候群の8件の症例対照研究を併合した場合のアスピリンサリチル酸製剤)使用の統合オッズ比は19.79(95%信頼区間10.46-30.43,p< 0.00001)であった. 

 感染動物にNSAIDを使用した実験から,ウイルスも細菌も,NSAIDを使用すると、血中や臓器中に,平均数倍から20倍(細菌),あるいは100倍(ウイルス)増加し,インターフェロンなどサイトカインは増加した2,3).また,in vitroでもNSAIDがTNF-αの誘導を増強することが確認されており4)、インドメタシンアスピリンの10分の1の濃度でもアスピリンよりも強く増強したが,アセトアミノフェンでは誘導増強がほとんどなかった5).

 

 新型コロナはまだよくわかっていないことが多いが、インフルエンザに似た強いウイルス感染症のようである。若年者の死亡例なども多数報告されているが、ウイルス感染症との戦いにおいて己の免疫システムを狂わす「NSAID」は避けた方が無難だと個人的には考えている。

 

 

1) 浜六郎ら:ライ症候群および,いわゆる「インフルエンザ脳症」を含む感染後脳症と解熱剤との関連に関する疫学調査の批判的吟味.第14回日本薬剤疫学会,2008年11月

2)Kurosawa S, Kobune F, et al. : Effects of antipyreticsin rinderpest virus infection in rabbits. J InfectDis.155(5):991-997, 1987

3)Vaughn LK, Veale WL, Cooper KE. Antipyresis : itseffect on mortality rate of bacterially infected rabbits.Brain Res Bull.5(1):69-73, 1980

4)Korteweg C, Gu J. : Pathology, molecular biology,and pathogenesis of avian influenza A( H5N1)infection in humans. Am J Pathol. ; 172(5):1155-
1170, 2008, Epub 2008 Apr 10.

5)Larrick JW, Kunkel SL : Is Reye's syndrome caused by augmented release of tumour necrosis factor?Lancet 2(8499):132-3,1986