脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

脳卒中と自動車運転

1.脳卒中と自動車運転

 

ある時突然脳卒中となり生きるか死ぬかを経験した後、幸いにして社会復帰を目指すことができるようになった。そのとき、多くの方が直面する問題が自動車の運転です。

 

東京などの都市ならば電車やバスなどの公共交通機関がありますが、地方では車の運転ができないと生活が成り立ちません。

 

まずは最近の自動車運転に関わる世の中の流れを説明します。

 

2011年4月18日てんかんのある人が運転するクレーン車によって登校中の児童6人が亡くなるという痛ましい事故が起こりました。運転者は道路交通法第66条の運転が禁じられた状態にあり、道路交通法第90条の免許が与えられない状態でありました。

亡くなった児童のご遺族はこのような事故の再発を防ぐため、免許が与えられない状態を行政がきちんと把握するべきだという請願書を法務大臣国家公安委員長に提出しました。これに対して、運転免許を管理する警察庁は、道路交通法の改正を行いました。

 

道路交通法66条・・過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない

 

 

2.道路交通法改正

 

2014年6月から自動車運転に関わる法律の運用が変わりました。

 

変更点は

① 免許を取得または更新時の質問票に回答しなければならない(義務化)

  つまり、病気の申告をするということです。

 

※虚偽の回答を行い事故につながった場合は1年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

 

② 運転してはいけない状態で運転し死傷事故を起こした場合の刑罰が重くなった

  自動車運転過失致死傷罪から自動車運転致死傷罪となる

 

※ 自動車運転過失致死罪・・7年以下の懲役・禁固化100万円以下の罰金

  自動車運転致死傷罪・・死亡事故で1-20年の懲役、負傷事故で15年以下の懲役 

 

 

これは、運転させないための法律ではなく、国民全体に事故を減らすことを働きかけるのが目的のものです。

 

 

2018年末の時点で、約24万人の人が身体障害の中で条件付き運転免許を取得しています。その内訳は、身体障害者用車両に限定した車種を運転している人が約19万人、補聴器の使用が約4万人、義手・義足の条件が付されたものが3883人でした。

 

3.自動車運転に必須な能力

 

 日本の道路交通法では、安全運転に必要な、「認知、予測、判断または操作」のいずれかにかかわる能力を欠くこととなるおそれのある症状を呈する病気は、運転免許の拒否または保留の対象になるとされている。

 

具体的には

 

【全身状態の安定性】

運転中の一定の時間、全身状態が医学的に安定していること

脳卒中の場合は、再発の危険性が極めて低く、障害の進行がないことを確認する

 

国によって基準は異なります。日本は明確な規定はありません。

 

イギリスを例にすると

 脳梗塞脳出血、一過性脳虚血発作発症後1カ月

  タクシーなど職業運転手はさらに慎重に1年間

 くも膜下出血動脈瘤の処置がなされていればよい

 急性硬膜下血腫に開頭術を行った場合は6か月       となっています。

 

 

【知覚系おもに視覚】

 「 視力が両眼で0.7以上かつ、一眼で0.3以上であること、または一眼の視力が0.3に満たないものもしくは一眼が見えない者については、他眼の視野が左右150度以上で視力が0.7以上であること」

 

となっているが、臨床的に視野欠損および半側空間無視があれば運転は許可できない。

 

【感覚・運動系】

脊髄損傷に見られる四肢の不全麻痺や対麻痺脳卒中による片麻痺や失調、神経・筋疾患にみられる末梢神経障害や筋力低下があっても、座位が保たれ、安全な運転操作が可能であれば運転は再開できる。

 

その際、ハンドル操作については、旋回ノブをつける、右片麻痺であればブレーキ、アクセルの位置の変更、両下肢麻痺に対するブレーキアクセルの手動運転装置への切り替えなどの運転補助装置の設置も考慮する。

 

※ 個々の障害に対して、代償手段を使いこなす能力があれば運転可能です

 

【認知系】

自動車運転にかかわる高次脳機能は患者にとっても医師にとっても、最も難しいです。

米国医学界のガイドラインによる運転能力に関する高次脳機能のスクリーニング項目は7つです。

① 視覚情報処理

② 視空間認知

③ 短期記憶、長期記憶、ワーキングメモリー

④ 選択性および転換性注意

⑤ 遂行機能 (計画性、判断)

⑥ 言語

⑦ 注意持続性

 

うーん。わけがわからないですね。

具体的には以下のような目安を参考にしてみましょう。

 

1.日常生活が(車椅子であっても)自立し、高次脳機能障害があっても社会生活上、支障とならないこと

 

2.脳画像(CT,MRI)にて広範な障害がないこと。特に両側前頭葉および右頭頂葉を中心とする障害が広範でないこと

 

3.神経心理学的検査において、基準値を大幅に逸脱しない事

 

  全般的認知機能としてWAIS ⅢまたはⅣ

  注意機能として Trail Making Test

  遂行機能として 遂行機能障害症候群の行動評価日本版 BADS

  視空間機能として Behavioural Inattention Test

 

注)最終的には医師による総合的判断となります。年齢、家族、仕事の有無、地域も判断に影響するでしょう。責任が持てないと言って診断書を書いてくれない医師もいますが、事故が起こった時の影響の大きさを考えると、それも仕方がない面もあります。

 

 

参考文献 Jpn J Rehabil Med 2020;57:110-116