脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

医療機関の組織マネジメントの実際

私は、医療機関で組織マネジメントに関わっている。

コンサルタントのような専門家としてではなく、いち医療従事者としてである。

 

いわゆる役職者になるにあたりマネジメント本は読んだが、理論通りにはいかない。試行錯誤の連続だった。結局、様々なことが人に依存する。何を言うかよりも誰が言うかの方が大事なことが多々ある。個々の場面においては、人の行動は理論よりも感情であることが多く、苦い思いをして、精神をすり減らした。

 

以下に、私の経験から組織マネジメントについて私見をお話しする。

 

 

1.医療機関における役職者の実際

 

医療機関における昇進、つまり役職者(管理職)は基本的に年功序列で決まることが多い。

 

医者であれば10年目くらいまでは経験年数=プレイヤーとしての実力と言っていい。

 

医者としての年数が上がるとともに、医師→医長→科長→部長(→副院長→院長) のように上のポストが空いていれば昇進していく。これは、看護師や他の医療職でもそれほど変わらない(ように見える)。院長や副院長など経営層は関連医局など他の要素も入っている印象なので(カッコ)にした。

 

では、病院で役職者にはどんな役割があるのだろうか。

部署を代表として会議に出る、ということはイメージしやすいがそれ以外はほとんど知らない方が多いのではないだろうか。

 

病院や部署によっても異なるが、役職者はその担当する範囲の運営および結果に対する責任を負う。会議にでることで売り上げや利益を考えるようになり、部下と一緒にプレイングマネジャーとして働きながら、部下の評価もしなければならない。しかし、そもそも部署の目標つまり結果が明確でなかったり、評価にあたりしっかりした評価軸や研修もないことが多い。さらに評価した内容を部下に面接し、フィードバックしていることはほぼ皆無ではないだろうか。評価軸があったとしても、体裁だけで実際はその役職者任せの病院が多いと私は思う。

 これは役職者が厳密な意味で結果への責任を負わず、結果として部下の評価も行わない。とすると、部署の運営のまとめ役程度の仕事しかしていないということになる。

 

多くの医療機関のマネジメントとはそのようなものであると思う。実際、役職者の最大の役割は現場を回すことであり、部下に仕事の仕方・慣習的ルールを教えて一人前に診療という実務を行えるようにすること、となる。

 

一般企業の方からは想像しずらいかもしれないが、医療において大きな診療の流れは厚生労働省により決められている。つまり創意工夫の余地はあまりない。全国どこの病院でも基本的な業務の流れは同じである。あとは、必要に応じてそれぞれの現場に合わせて細かい作業手順(ルール)を決めていくだけである。

 

新規に診療を開始した病院や科でなければ、だいたいすでに業務フローはできあがっている。つまり何か問題が起きたり、制度変更があったときだけ対応すればいい。通常運転に乗ってしまえば役職者の仕事は属人的なものが主となる。

 

2.組織改革

 

新型コロナウイルスにより多くの病院が大打撃を受けた。

診療も既存の業務フローを変えることが求められ、また経営的にも逼迫した。

生き残りをかけて病院運営を見直そうとなったとき、役職者の仕事は途端に多くなる。

 

通常病院の組織文化はトップダウンである。

前述の通り医療では「標準的な方法」がある程度決まっていることが多く、「伝統的に大切にされてきたことをしっかりやる」ことを重視する人たちが多い。何か新しいことを始めるとなると、「今までやってきた方法をなぜ変える必要があるのか」という反応は必発で、それはコロナ禍においても同様であった。

 

人々の変化への抵抗は想像以上に強い。

病院トップですら正解がわからない非常事態に院内の英知を集めて対応にあたる。

正解に聞こえるが、一致団結の実践は困難なケースが多い。

 

 役職者は基本的には自分の権限内で裁量を発揮する。逆に言えば権限外では裁量は発揮できない。病院には診療部・看護部・事務部などたくさんの部があり、各部署はさらに細かく分かれていく。他部署がかかわる場合、他部署の責任者の了解が必要となる。その際に大きな困難と対峙することになる。

 

 私の経験から達した結論をさきに述べると、トップダウンでしか病院のような複雑な組織は動かない。そして、あらゆる部署にトップダウンを決断・実行できるのは院長だけであり、その権限を行使できる院長がいなければ病院は本質的に変わらないし、変えられない。

 

3.停滞した組織と成長している組織

 

病院を変革するときは強力なトップダウンが必須であるとお話しした。

つまり院長にしかそれはできない。その上でまたその限界も見えるようになった。

 

病院は業務が標準化された組織であるとお話しした。

それは通常ではあまり新しいことはないということと同義である。

前例踏襲でおおよそ事足りる。

 

組織が成長しているときは、新規事業や事業拡大に伴いポストが増え、新しい役職者が

生まれたり、若い人が挑戦する機会がある。しかし、高齢化に続く人口減少により厳しい経営環境の中、病院事業は長期的には事業縮小トレンドの中にある。成長しない組織では、ポストは固定化し、標準化された仕事の繰り返しのなかで、意欲のある人が新しい挑戦することが難しい環境となりやすいように思う。

 

院長はトップダウンで業務を動かすことはできるが、病院においてそれほど新規事業などはないことが多い。総じて、成長していない組織は意欲のあるスタッフにとって、毎年なんとなく同じことの繰り返し、10年後の自分が今と変わらない姿でイメージできてしま職場となる。それが安心して受け入れられるスタッフもいれば、一人前になるころに次のステップのために離職するというスタッフもいる。得てして、向上心のある優秀な人材の流出が起こる。

 成長しない組織、特に現在の多くの医療機関は成長意欲のあるスタッフほど離職率が高くなっていくという残念な現場となりやすいのではないか。それはマネジメントの問題とともに、医療機関の置かれた厳しい環境によるのだと考えている。