脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

スポーツ観戦でうつが抑制される可能性がある

 スポーツで体を動かすとストレスが発散されることは多くの人が実体験を通してなんとなくは理解していると思います。しかし、スポーツをテレビで見ることでストレスが発散されると思う人はそれほど多くはないのではないでしょうか。

 

今回、日本人高齢者を対象とする研究からスポーツをテレビでみることでもうつ傾向が解消されるかもしれないという報告があったのでご紹介します。

 

はじめに

 スタジアムなどでスポーツを観戦する高齢者は、主観的幸福感が高い可能性が報告されている。ただし、これまで行われてきた研究は調査対象者数が少なく、またテレビでの観戦の影響はほとんど検討されていない。テレビの視聴はむしろ身体の健康に良くないとされることが多く、視聴時間を減らす啓発活動もなされている。

 

方法

 日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを横断的に解析した。JAGESは、全国60以上の市町村が共同で行っている高齢者(65歳以上)を対象とする研究で、登録者数は約20万人。その中からスポーツ観戦に関する質問に回答していた2万1,317人(男性1万324人、女性1万993人)のデータを用いた。

 

 スポーツ観戦の頻度は、週に1回以上、月に1~3回、年に数回、観戦しない、という4つに分類した。また観戦手段は、スタジアムや体育館などの現地での観戦と、テレビやネットでの観戦とに分類した。観戦の対象はプロレベルのスポーツに限定せず、地元のスポーツクラブの試合なども含めた。

 うつレベルは、高齢者のうつ症状のスクリーニングに用いられる「Geriatric Depression Scale;GDS」で評価した。これは15点満点で、点数が高いほどうつ傾向が強いと判断される。今回の検討では、5点以上を「うつ傾向あり」と定義したところ、21.4%がそれに該当した。

 

結果

 

テレビやネットでスポーツ観戦をしない人に比べて観戦頻度が

年に数回の人は「うつ傾向あり」の有病率(PR)は0.92(95%信頼区間0.86~0.98)

月に1~3回の人はPR0.89(同0.83~0.96)

週に1回以上の人はPR0.83(同0.77~0.88)だった。

 

また、現地で観戦しない人に比べて

年に数回観戦する人はPR0.80(0.74~0.85)

月に1~3回ではPR0.79(同0.64~0.97)

 

と、「うつ傾向あり」の該当者が有意に少なかった。

 

※自分自身が週に1回以上スポーツに参加しているか否かで分けた場合、参加頻度が週1回以上の人の方が、スポーツ観戦とPRの低さとの関連が強い傾向があった。

※スポーツ観戦をする人はしない人に比べて地域社会とのつながりや友人とのネットワークが充実していることが明らかになった。媒介分析の結果、スポーツ観戦とうつリスクの低さの関連の9.6~23.7%を、地域社会とのつながりや友人とのネットワークの強さで説明できることが分かった。

 

まとめ

・スポーツを観戦する高齢者は観戦しない人に比べ、うつリスクが低い

・テレビやネットでの観戦頻度では用量反応関係が認められた

・テレビ視聴は健康への害が強調されがちだが、うつとの関連では異なる側面を持つ可能性がある

・スポーツを“見る”ことは“する”よりもはるかに容易だ。観戦クーポン券を高齢者に配布したりテレビやネットの中継を充実させることが、高齢者うつの予防戦略になり得る可能性がある

 

原著論文:Tsuji T, et al. Sci Rep. 2021 May 19 [Epub ahead of print]