脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

ALSはMg欠乏に起因するタンパク質合成の障害が原因という私の仮説

ALSについての考察は過去に行った。

その後、臨床医との議論を経て考えを更新した。

 

naorureha.hatenablog.com

 

表題の仮説は次の問いへの考察から。

 

その1 なぜ運動神経だけが特異的に障害されるのか

 

その2 ALS初期に血液検査でCPKが上昇するのはなぜか

 

その3 ALSでは脳脊髄液検査において軽度タンパク上昇が起こる例があるのはなぜか

 

その4 反復筋電図において、wanningを認める(神経筋接合部の障害)症例がある

    それはなぜか

 

 

1.なぜ運動神経だけが特異的に障害されるのか

 

ALSは運動ニューロンの病気である。他にも運動ニューロンの病気はいくつかあるが、ポリオなど感染症やギランバレー症候群など免疫学的な機序によるものが主である。ALSは免疫療法は効かないとされ、発症メカニズムは分かっていない。

 

前述したその1-4の謎が、病気の原因への手がかりであるように思う。過去の記事で「恒常性の破綻」という内因的な視座でALSの原因を探った。その視座で考えてみるが、解剖学的、生理学的に考えて脊髄や末梢神経の運動ニューロンだけが障害される機序が考えつかなかった。唯一、脊髄運動神経の亜鉛トランスポーターの異常に起因する亜鉛恒常性破綻という機序が考えられたが、既報告からはそれが一次的な変化で起こるとは考えにくかった。この異常は別の変化の二次的な影響のようである。

 

引用:ヒト ALS における亜鉛トランスポーターに起因する 小胞体ストレスと治療法開発 M. Kaneko, T. Noguchi, S. Ikegami, T. Sakurai, A. Kakita, Y. Toyoshima, T. Kambe, M. Yamada, M. Inden, H. Hara, H. Takahashi,and I. Hozumi, Zinc transporters (ZnT3 and ZnT6) are diminished in the spinal cords of the patients with sporadic amyotrophic lateral sclerosis (ALS) . JNR 2014.

 

そこで、ALSの初期病巣は神経ではなく「筋肉」であり、筋肉につながる「運動ニューロン」は二次的変化ではないかと考えてみた。すると、上記の問いに対する説明がしやすくなるように思われた。その際は、神経伝達物質やニューロトロフィンなど神経と筋の相互作用がカギとなり、生理学的事実に基づく説明は困難で、断定的なことは言えない。仮説となるが、一言で言うなら「筋肉におけるタンパク合成異常」という表現になる。

 

下の図でいうと、左の「手足口の筋肉」から右の「神経」への病態進行があるのではないかということを仮説としてお話した。

田辺三菱製薬ホームページより引用

2.ALS初期に血液検査でCPKが上昇するのはなぜか

 

ALSガイドライン2023では、CPKはALS患者では正常範囲もしくは軽度上昇にとどまることが多く、高値の場合には筋疾患の可能性を考慮することが必要であると記載されている。

 この記載では触れていないが、ギランバレー症候群などの運動ニューロン疾患においてCPKが上昇することは通常なく、CPKは筋疾患のマーカーである。なぜALSで軽度上昇があるのかは説明されていない。

 CPKは筋が壊れた時に血中にでる。つまり何らかの「筋肉の異常が存在する」ということである。これは神経障害のみから説明するのは困難であると思う。だとしたら、筋にも何らかの異常が起こるような病態を考慮して病因を考えなければならない。

 

※線維束収縮(fasciculation)が原因では?と考えるかもしれないが、fasciculationの量とCPKは相関しないようである。

 

3.ALSでは脳脊髄液検査において軽度タンパク上昇が起こる例があるのはなぜか

 

ALSガイドライン2023では、脳脊髄液総蛋白は一部の例で軽度の上昇を認めると記載されている。その理由については説明していない。

 

一般的に考えるとタンパク上昇ということは、脳脊髄液中で免疫反応が起きていると考えることができる。つまり、ALSという病態において一次的もしくは二次的に何らかの「免疫的な機序が働いている」ということである。これは病態や治療、ひいては病因を考えるうえで、現在の変性疾患という視野を広げる必要があるということを示唆していると思う。

 

 

4.反復筋電図において、wanningを認める(神経筋接合部の障害)症例があるそれはなぜか

 

これはガイドライン2023にも記載はないが、臨床的にはしばしば認められる。当初、重症筋無力症などの他疾患の合併と考えられたが、その後ALSの病態に関連した所見と理解されている(議論の余地あり?)。いずれにしろこの所見が意味するところは「神経筋接合部」の異常が起こっているということである。

 

1-4をまとめると、運動神経が単独で障害され、神経筋接合部、筋にも初期から異常が存在する。また、脳脊髄液(脊髄)では免疫的な応答が起きていることがある。これは神経障害単独では説明は難しく、これらを包括的に説明する仮説は神経細胞のみならず多臓器にて細胞内の蛋白質の合成異常により異常蛋白が作られている。その異常蛋白に対して自己免疫応答が起こっている」である。

 

ALSガイドライン2023では病態・機序について

●遺伝的要因と非遺伝的要因が存在するが,両者にはグルタミン酸による神経毒性,蛋白質分解不全や RNA 代謝異常,小胞体ストレス,酸化ストレス,神経炎症など多くの共通病態が想定されている.
●家族性 ALS では原因遺伝子の機能低下ないしは変異蛋白質の毒性獲得,あるいはその両者による神経変性が想定され,孤発性 ALS では異常封入体を構成する TDP-43 が病原蛋白質と想定されている.

と記載している。

 

これらは運動神経局所の分子機構の異常を説明をしているが、結果として起こることは異常蛋白の生成である。そして、どれか1つが起こるとALSを発症するわけではなく、それぞれが複合的に関連しあって発症に至ると考えられている。

 

 「正常な生体システムの中で、運動神経に異常蛋白が発生」という発想であるが、「生体システム全体の異常によって運動神経などに異常蛋白の発生」と考えられないだろうか。

 

それが表題の「Mg欠乏→恒常性システムの異常→異常蛋白の発生」という考え方である。生体における基本的な生命維持にかかわる機構であるミネラル(Mg)欠乏が及ぼす結果は生体システムの異常という視座でとらえなおすことが必要ではないかと考えている。