脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

認知機能向上に効果的な有酸素運動:ゴルフ、ノルディックウォーキング、ウォーキングの比較

はじめに

 有酸素運動により、運動の強度や実施時間、種類に関係なく認知機能が向上する可能性が過去の研究で示唆されています。年齢を重ねるごとに脳の機能は低下していくなかで、記憶や思考力を保つためにするべきことは何なのか。散歩や速めのペースの歩行などがよいことは広く認識されていますが意外とその範囲は広いのかもしれません。その質問に答える研究を報告します。

 

方法

 5日間にわたるランダム化クロスオーバー試験により、認知的要求度の高い3種類の高齢者に適した有酸素運動18ホールのゴルフ、6kmのノルディックウォーキング、6kmのウォーキング)が認知機能に及ぼす即時的な効果を検討した。

 対象者であるゴルフを趣味とする健康な高齢者25人(平均年齢69±4歳、男性16人)には、3種類の運動の全てを、各運動の間に1日のウォッシュアウト期間を挟みながら、実際の生活環境の中で自分のペースで行ってもらった。運動の際には、フィットネスモニターにより距離、時間、ペース、エネルギー消費量、歩数を測定し、ECG(心電図)センサーにより心拍数も測定した。

 認知機能については、高齢者の視空間認知機能の評価に広く用いられているトレイル・メイキング・テスト(Trail Making Test;TMT)のパートA(TMT-A、注意力や処理速度を評価する)とパートB(TMT-B、作業の切り替え能力や、作業記憶と認知的柔軟性を要する実行機能および高次の認知機能を評価する)により評価を行い、それぞれのテストを完了するのに要した時間を計測した。また、対象者から運動の前後で血液を採取し、運動による効果を反映する物質と見なされているエクサカイン(運動応答性生理活性物質)として、BDNF(脳由来神経栄養因子)とCTSB(カテプシンB)の測定を行った。

 

結果
 3種類の有酸素運動の全てで、運動前と比べて運動後にはTMT-Aを完了するのに要した時間が有意に短縮することが明らかになった(ゴルフ:−4.43±1.5秒、ノルディックウォーキング:−4.63±1.6秒、ウォーキング:−6.75±2.26秒)。

 ノルディックウォーキングとウォーキングでは、TMT-Bを完了するのに要した時間についても有意に短縮していた(同順で、−9.62±7.2秒、−7.55±3.2秒)。TMT-AおよびTMT-B完了に要した時間の合計は、全ての運動で、運動前と比べて運動後に有意な短縮が認められた(ゴルフ:−9.23±4.7秒、ノルディックウォーキング:−14.26±7.4秒、ウォーキング:−14.28±8.20秒)。ただし、TMT-B完了に要した時間からTMT-A完了に要した時間を差し引いた値に有意な短縮が認められたのはノルディックウォーキングのみだった(−4.97±7.26秒)。一方で、BDNFとCTSBの値に運動の即時的な影響は認められなかった。

 

考察
 すべての有酸素運動で認知機能の改善があったことから有酸素運動が認知機能の維持向上に有効であることが示されました。ノルディックウォーキングはなじみのない方もいるかもしれませんが、専用ポールを使用して上下肢を十分に動かし、通常のウォーキングに比べて、下半身だけでなく上半身(腕や背中)の筋肉も使用する全身運動で、身体にある90%以上の筋肉を意識して使うことができると言われています。個人の好みも考慮して取り組みやすい運動を選ぶのがよいのかもしれません。

 

引用論文: Kettinen J, et al. BMJ Open Sport Exerc Med. 2023;9:e001629.