脳梗塞後の世界で生きる日記

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新・日本の階級社会

階級社会というテーマの本であるが、データ分析に基づいた日本社会の国民生活の分析を行った本である。格差について私はあまり知識がなかった。一方で、著者の主観的な主張を一方的に聞くことはあまり好きではない。データに基づいた等身大の日本の現状分析を行っている本書は、ある程度正確に国民生活を知ることができる本である。分類手段としての結果を考察し、階級社会と表現している。

 

1.一億総中流は錯覚である

 

内閣府による国民生活に関する世論調査によると、日本人の中流意識は1975年から2017年にかけて「中の中」の割合は減少しているもの割合全体に大きな変化はない。アンケートの選択肢が「中」が多くなる問題点もあるが、多くの国民が自分を中流であると認識していることは事実ではないかと思う。

日本人の中流意識

 

一方で、国民生活は大きく変化してきており、データを抽出すると格差を実感する人々が増えてきている。その間の産業構造の変化の中で、著者によれば日本には5つの階級が存在する。そこには、古くから言及される資本家VS労働者という階級ではなく、労働者が「新中間階級、労働者階級」に分かれ、その両方を兼ねる位置づけとなる「旧中間階級」が分かれている。

 

現代社会の階級構造

 

1.資本家階級(経営者・役員:254万人、就業人口の4.1%。平均世帯年収男性1070万円、女性1039万円。平均資産総額4863万円(金融資産2312万円)。

 

 私の意見:いわゆる企業経営者・オーナー一族

   会社の資産と個人資産の境界はあいまいで、年収はあまりあてにならない


2.新中間階級(被雇用の管理職・専門職・上級事務職:1285万人。就業人口の20.6%。平均世帯年収男性804万円、女性788万円。平均資産2353万円(持ち家がない人は935万円)。

 

 私のイメージ:大企業や官公庁の管理職や医者・弁護士・教師などの専門職


3.正規労働者階級(被雇用の単純事務職・販売職・サービス職・その他マニュアル労働者):2192万人、就業人口の35.1%。平均世帯年収男性569万円、女性687万円。平均資産総額1428万円(持ち家がない人は406万円)。貧困率2.6%。

 私のイメージ:いわゆる中小企業で働く正社員


4.旧中間階級:806万人、就業人口の12.9%。平均世帯年収587万円。平均資産総額2917万円。貧困率17.2%。

 私の意見:個人事業主や零細企業をファミリービジネスとして行う経営者一族

      玉石混交で個人資産と会社資産の境界はあいまいで年収はあてにならない

    貧困率は高いが、経費などの活用手段があるため、あてにならないと思う。        

 

5.アンダークラス非正規労働者:929万人、就業人口の14.9%。平均世帯年収343万円。平均資産総額1119万円(持ち家がない人は315万円)。貧困率38.7%

 

 私の意見:いわゆる非正規労働者と母子家庭

      本書の最大の主張である近年生まれた新しい階級

 

2.戦後日本における階級構造の変化

 

戦後日本における階級構造の変化

グラフを見ると戦後日本の社会のかたちが、実にダイナミックに変化してきたことがわかる。戦後まもない1950年には、旧中間階級(農民を含む)が日本の有業者の6割近くを占めていた。労働者階級はその半分にも満たない28%で、新中間階級も11%にすぎず日本は、一つの巨大な農業国だった。その後、経済復興が進み、高度成長と共に農民層は激減していった。1960年代に自営業者を含めた旧中間階級と労働者階級の数が逆転し、1990年には新中間階級も旧中間階級を上回った。こうして日本の階級構造は、発達した資本主義社会としての特徴を示すようになった。

3.アンダークラスの登場

 

被雇用者と年収

アンダークラスは、もともと英米圏での研究から生まれた用語で、主に大都市部で生活する少数民族貧困層をさすことが多かった。しかし先進国の多くで経済格差が拡大する中、今日ではより一般的な存在となった。

 本著ではアンダークラスパート主婦を除く非正規労働者と定義した。人数は929万人で、就業人口の14.9%を占めて、激増を続けている。女性比率は43.3%で女性の割合が最も高い階級である。

 職種は男性ではマニュアル職が57.9%で、残りがサービスと販売が多い。女性は事務、販売、サービス、マニュアルが4分の1ずつである。

 際立った特徴は、男性で有配偶者が少なく、女性で離死別者が多いことである。未婚のままアンダークラスであり続けてきた女性がかなりの数いる一方で、既婚女性が夫との離死別を経てアンダークラス流入してくる様子がうかがえる。

  アンダークラスには最終学校を中退した人が多い。その比率は12.0%で他の階級平均の2.2倍である。学校中退が、安定した職の確保に大きくマイナスに働いていることがうかがえる。学校でいじめを受けた経験を持つ人の比率が高く31.9%に上る。学校を休みがちになったことがある人の比率も9.9%と高く、いじめや不登校の経験はアンダークラス所属と結びついている。

5つの階級と生い立ち

4.階級は固定化しているか(男性)

 

格差社会をめぐる大きな論点の一つが、格差の固定化である。つまり、豊かな両親のもとで生まれた人々は自分も豊かになり、貧しい親のもとで生まれた人々は自分も貧しくなるということである。このような固定化傾向があることは、古くからの研究で証明されているが、問題はその傾向が強まっているかどうかである。

 

以下は、直感的にわかりやすい世襲率と変化をより正確に反映すると考えられるオッズ比のグラフである。

 

非移動率と世襲率の推移

非移動率は1955年の0.604から1965年、1985年0.381と下がっている。その最大の原因は旧中間階級の大部分を占めていた農民層の子どもが農民層以外に流出したことである。1995年になると非移動率はわずかに上昇しているが、明らかに固定化が進んでいると言えるほどではない。

 世襲率は階級によって違う。はっきりしているのは旧中間階級で、1955年には0.663に上っていた世襲率が急速に低下した。理由は非移動率で記載した通りである。これに対し、資本家階級は1965年から1975年にかけてた階級からの参入が盛んになり世襲率が低下したが、その後は上昇に転じている。

 一方、オッズ比でみると旧中間階級は世襲率ほどの低下はなくほぼ横ばいである。これは、世襲率の低下は主に旧中間階級全体が低下したのであり、「旧中間階級出身者は、それ以外の出身者に比べて相対的に旧中間階級になりやすい」という傾向自体は変化していないことを示している。これに対し資本家階級と労働者階級は世襲率と類似していて、1975,1985年ころまではオッズ比は低下し、継承性は弱まったが、その後は継承性を強めている。特に資本家階級は1975年に3.48だったオッズ比が2015年には15.41と急激に上昇しており、著しく閉鎖性を強めてきたと言っていい。

 階級構造の頂点に立つ資本家階級と底辺に位置する労働者階級がともに世代的な継承性を強めたのだから格差の固定化が進んだと結論しても間違いではないだろう。

 

※60年間のデータが得られるのは男性だけのため上記の分析は男性について当てはまるものである。

 

5.階級は固定しているか(女性)

 

女性の階級意識を調べる場合、本人は専業主婦だったり、パート主婦だったりするので、本人の階級所属がなかったり、あったとしても生活水準と意識は、当然ながら夫の階級所属から強い影響を受ける。よって、女性の世代間移動を考える際には父親と夫の階級所属の比較も必要となる。

 

女性・父親と本人の比較

女性の父親と女性本人の比較では、非移動率は0.35前後で安定している。男性のように近年になって非移動率が上昇する傾向はみられない。オッズ比でみても同様であり、女性の階級所属は父親の階級とはあまり関係がないといえる。

女性・父親と夫の関係

父親と夫の階級所属の関係について、オッズ比はやや変化が大きく、特に資本家階級は2015年に急落してほぼ1.0となった。これは資本家階級出身とそれ以外の女性で、資本家階級の夫を持つ確率が全く同じになったということを意味する。

 全階級でオッズ比は低下傾向であり、女性がどの階級の夫を持つかということは父親の階級と弱い関係しかないといってよい。

 

6.女たちの階級社会

 

男性の場合、その生活水準や意識は、ほぼ本人の階級所属によって決定されると考えてよい。これに対して女性は、自分の階級所属と共に、あるいはそれ以上に夫の階級所属の影響を受ける。したがって、女性の格差を考えるためには、両者に同時に注目しなければならない。

 

2015年SSM調査

妻が夫より収入が多い  6.0%

妻と夫の収入が同じ   7.8%

妻が夫より収入が少ない 86.2%

妻が夫の収入の半分以下 68.8%

 

以上より世帯収入の大部分は夫の収入により決定されている。よって、本人の階級所属と夫の階級所属を組み合わせて分類を行った。

 

女性の階級所属と夫の階級所属

各階級の定義に関わる調整を行い、女性を30のグループに分類を行った。

人数が多いのは

 本人がパート主婦で夫が労働者階級のケースで10.7%

 本人が無職で夫が労働者階級が10.0%

 夫のいないアンダークラスが8.3%

 配偶者のいない正規労働者7.9%

 無職で夫が新中間階級7.8%     などが続く。

 

さらに細かい分析が本書では行われています。

興味がある方は購入するか図書館などで借りて読んでみてください。

17グループの女性たちの基本属性

 

※ 本書を読んでの感想

 日本の重要かつ緊急性のある社会課題は少子化である。そして、少子化対策として保育園の整備など子育てしやすい環境整備が叫ばれているが、「未婚」の問題の方がインパクトが大きいように思う。特に、男性のアンダークラスは未婚率が高く、正社員並みの待遇が得られるような対策が最も費用対効果が高いのではないか。

 女性の階級について、生まれの階級と夫の階級はほとんど関係ないということで、格差とは正反対の結果であり、良い傾向になっていると思う。一方で、アンダークラスは女性比率が高く、未婚・賃金格差など女性にとっての社会課題を認識することができる。