脳梗塞後の世界で生きる日記

患者視点でリハビリについて情報発信します

薬物治療の未解明:メトホルミンの多面的作用

はじめに

 メトホルミン(metformin)は、米国では2型糖尿病に対する第1選択薬として、最も広く処方されている薬剤である。2021年は9,100万件の処方箋、2004年の4,000万件から増加している。アメリカは医療費が高いため、費用対効果の点からも積極的に選ばれている点に注目したい。

 metforminの効能は2型糖尿病に留まらない。血糖管理だけでなく、さまざまながん、肥満、肝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、腎疾患など、より幅広い疾患に対しても有効な可能性がある。

 さまざまな疾患に関するエビデンスが蓄積されるにつれ、多くの試験が開始されており、今まさにその適応を拡大しようとしている。

 

糖尿病

metforminは生薬としての起源を持ち、1918年に血糖低下作用が発見されたものの1930年代には毒性の恐れを理由として廃れた。1940年代に欧州で再発見されて合成され、1957年に糖尿病に対する使用の初の報告があり、米国において1994年に承認された。

 本剤は、世界保健機関(WHO)の必須医薬品リストに初めて記載された2011年以降、2型糖尿病に対する推奨第1選択薬としての地位を維持している。

 これまでは、主にそのインスリン感作作用に焦点が当てられていたが、最近再び関心が高まっているのは、他の複数の受容体に作用するという仮説も関連している。

 

心血管病

 2023年に開始されたVA-IMPACT試験は、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患を有する前糖尿病状態の患者において、metforminが死亡または非致死的虚血性心血管イベントのリスクを減少させるという仮説が検証されている。

 metforminの主な作用機序は、代謝調節、細胞保護、生存の中心的経路であるAMP(アデノシン一リン酸)活性化プロテインキナーゼの活性化によるものとされている。

実験データでは、アテローム動脈硬化症の発症抑制、心筋梗塞サイズの減少、内皮機能の改善、抗不整脈作用が示されており、それらのいずれの作用も糖尿病の有無に依存しなかった。

 現在組み入れ中の他の心血管関連アウトカム試験としては、Met-PEF試験、LIMIT試験、Metformin as an Adjunctive Therapy to Catheter Ablation in Atrial Fibrillation(心房細動におけるカテーテルアブレーションの補助療法としてのMetformin)試験がある。

 

がん
 ニューヨーク州のRoswell Park Comprehensive Cancer Centerでは、がんの高リスクである過体重または肥満者において、metforminが肺がんを予防するかどうかを調査する第II相試験を行っている。

 本試験では、metforminが参加者の免疫系を再プログラム化し、がん発症に関連する制御性T細胞の活性化を抑制させることができるかどうかも評価される予定である。

 

・前臨床データや後ろ向きの臨床データでは、metforminは抗がん作用を有することを認めているが、それは患者が過体重の場合に限られる

・マウスにおいて、肥満により制御性T細胞の機能が亢進し、肺の免疫系を抑制することがわかった。metforminは、この影響を元に戻すことができる

・本試験は、ヒトにおいても同様の効果が得られるかどうかを調査するため本試験を実施している。口腔がん、子宮内膜がん、脳腫瘍など他のがん種においても研究が進行中である。

 

アルツハイマー
 metforminは認知機能の低下を少なくとも遅らせることは、明らかにされつつある。ニューヨーク市のColumbia University Irving Medical Centerではmetforminのアルツハイマー病予防作用を評価する第II/III相無作為化比較試験を行っており、「インスリン値と血糖値の改善によりアルツハイマー病のリスクを低下させられる」という仮説を検証している。

 

まとめ

metforminはあらゆる疾患に有効な薬なのか? 想定されるこれらすべての有益な効果は、血糖降下薬およびインスリン感作薬としての作用に伴うものなのか、それともmTOR(mammalian target of rapamycin)阻害や直接的な抗ウイルス作用を含む他の細胞作用によるものなのか。

 

結論としては、不明である。

 

安価で普遍的に入手可能な本剤が、疾患状態に対し有効かどうかを調査することは確かに有益であるが、消化器関連有害事象や、ビタミンB12欠乏症の可能性、骨格筋発達の鈍化、腎機能障害者における乳酸アシドーシスのまれなリスクなどの有害事象の潜在的リスクにも注意が必要である。